アメリカ発?「FIRE」ってなに?

 

価値観の多様化に伴って、30代前後でリタイアし、投資や資産運用、倹約という方法で独立するムーブメントが注目を集めています。

名付けて「FIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的に独立して早期退職)」。

 

この記事ではFIREの始まりから日本での浸透余地まで説明していきます。

 

 

1.FIREのはじまり

FIREというコンセプトが生まれたのは、「Mr.マネーマスタッシュ」というカナダのブロガーが発端でした。

彼はソフトウェアエンジニアとして30歳まで働きながら、倹約生活や家計管理、投資、節税方法などの独自見解をブログで発信し、徐々に貯蓄を増やしながら早期リタイアの土台を固めていきました。

その後30歳で早期退職を実現した彼は、「倹約は解放、決してはく奪とは違う」というコンセプトのもと、支出をいかに抑えて貯蓄率を上げるかに焦点を絞り、自ら経済的な独立を果たしました。

 

Mr.マネーマスタッシュは家族3人で2万4,000ドル(約260万円)程度の支出額を実現しつつも、投資と資産運用によって、週末には家族とゆっくり旅行を楽しめるだけの収入を確保しています。

 

 

 

2.贅沢は要らない

FIREを支持する若者たち、いわゆるミレニアル世代は、65歳まで働き続けるという伝統的な生き方に疑問を抱きつつあります。

ある程度まとまった資産を築いたら早期退職して、あとは年収が仮に下がったとしても、好きな場所で好きなことを仕事にして生きていこうとしているわけです。

 

早期退職っていうと悠々自適な贅沢ライフのイメージがありますけど、FIREの人たちは別に贅沢したいわけじゃなくて、自分の時間、自分の人生を自分で決めたいという思いが強いのが特徴です。

永久就職が過去のものになって、海外アウトソースとAIで仕事が奪われて、明日をも知れない時代。「会社なんてなんのアテにもならない、自分の身は自分で守らなきゃ」という意識ですね。

 

昇進レース、昇給の心配、住宅ローン、過労、終わりのない大量消費…といった悪循環をお金の力で断ち切りたいと切望する人たちがミレニアル世代を中心に現れ、数の計算を始めたらちょっとの工夫でできることに誰かが気づき、ネットで情報交換しながら実践する人が増えている、というわけです。

 

【補足:成功体験をブログ公開する人が多い】

成功した人たちは、その体験をブログや書籍でシェアして副収入源にしています。

実践方法を紹介するポッドキャスト「FIRE Drill」も、Apple Podcastで上位100に入る人気っぷり。

けっきょく夢見る人が多い割には実行に移す人が少ないから安定的に読者が確保できるんでしょうね。

 

使えるものはすべて使って貯める、という拡大再生産の面もありますけど、ブロガーのインタビューを見ると、社会のレールから外れる中で自分を見失わないように記録して発表しているという、メンタルな効能もあるようです。

 

 

 

3.「Lean FIRE」と「Fat FIRE」

FIREにも2通りのタイプがあります。

 

ひとつは「Lean FIRE(やせ型)」。

体脂肪を燃やしまくるかのごとく、とことん切り詰めるタイプ。

もうひとつは「Fat FIRE(肥満型)」。

普通の生活水準を保ちつつ、余剰収入(fat=脂肪)を貯蓄と投資で肥やしまくるタイプです。

さらに「バリスタFIRE」なんてのもあって、これは会社の健康保険目当てにスタバでパートで働くセミリタイア。

アメリカは健康保険バカにならないのでこんな変則型ができたんでしょうね。

 

今までしっかりと貯蓄を行い経済的な余裕がある人は「やせ型」、投資や資産運用で余裕のある投資収益率を確保できる自信のある人は「肥満型」という選択肢がありますが、なかなか20代の内から成功させるのは難しいかもしれません。

FIREでは完全に会社から離れず、セミリタイアから始めることもできるので、倹約と投資のバランスを見極めながら徐々にスタートしていくことをおすすめします。

 

 

 

4.FIREは能動的ムーブメントである

現在進行形で「firing」と書けば、それはケチケチ貯めこみ、家計の柱となる金の卵をコロコロ太らせ、経済的独立を目指す段階を指します。

あがりになると「fired」の完了形にステージアップします。

面白いですよね。

英語で「fired」っていうと普通はトランプの「You’re fired(おまえはクビだ)!」という決め台詞みたいに受動態でしか使われないのに。

FIREムーブメントの「fired」はあくまでも能動態です。

 

 

 

5.1年で使うお金の25倍必要!【重要】

では、どのようにすれば日本でもFIREを実現し自由な暮らしを手に入れられるのでしょうか。

 

FIREを実現すると会社から解放されて、時間的な余裕も生まれるというメリットがあります。

また、倹約と投資をうまくコントロールできれば、悠々自適な生活を送りながら、なおかつ老後や将来の不安から解放されることにも繋がるでしょう。

一方、FIREを実行するには戦略が必要で、30代という早期リタイアを行うには若い内からいかに支出を抑え(倹約)、いかに収入を増やす・安定させる(投資)のかを考えておかなければなりません。

もちろんそこには、お金に関する知識や判断能力である金融リテラシーも欠かせないでしょう。

 

まず重要な点として、FIREを効果的に実現するには、「4%」という数字が重要視されます。

これは、アーリーリタイアするために必要な貯蓄は、年間支出の約25倍であることを示します。

 

(運用元本) =(年間生活費)×25であれば、(運用元本)×4%=(年間生活費)

 

すなわち、年間生活費の25倍の運用元本を作れば、年利4%の運用を行うことで、早期退職しても元本を減らさずに生活ができるということです。

 

『4%ルール』

簡単に言えば、4%という数字は投資の利回りとしても現実的で、生活費も投資資金の4%以内におさめることができれば無理のない生活が送れるとされているからです。

この「4%ルール」はMr.マネーマスタッシュにより提唱されました。

たとえば、月々の収入が40万円、その内半分の20万円が生活費で残りの20万円を自由に使えるという場合。

また、貯金が100万円あるとすれば、1ヶ月目は120万円、2ヶ月目は140万円と運用できる金額が増えていきます。

この複利効果で年に4%の運用ができた場合、5年目の総資産は1,400万円を超え、10年目には2,900万円を突破します。

 

年間に4%の利回りを実現するには、高配当の株式投資、米国S&P500指数連動型ETFなどの選択肢がありますが、現在はネット社会なので方法は金融商品に限りません。

アフィリエイトや商品の海外輸入、個人商取引のなどで不労所得を目指す方法まで様々です。

もちろん、実際にリタイアしてからこうした勉強をするのは難しいので、自立できる環境が整うまでの準備が必要でしょう。

 

現在の会社からの給与を上回るだけの収入の組み合わせができれば、今まで通りの生活レベルを維持しながら、雇われの身から解放することができます。

 

これに基づくと、年間生活費400万円の世帯は1億円の運用元本を蓄える必要があることになります。

しかし、さらに切り詰めて年間200万円で生活する世帯は、5,000万円の蓄えで足りることになります。

 

ちなみに、日本の標準的な家計(3人家族)の生活費はおよそ26万/月ですから、

26万×12ヶ月×25倍=7,800万円となります。

 

日本でも、「自由にのんびり暮らしたい」と望む人は過半数の52.4%に達し(内閣府調査)、今までなら当たり前だった、大学卒業後の就職活動や終身雇用といった考え方に疑問を感じる若者が増えています。

しかし7,800万円を若いうちに貯められる家庭はほとんど存在しませんよね・・・。

 

発祥の地アメリカではレストラン従業員など、富裕層やエリートではない層でもFIRE実現に向けて取り組みを開始している人が増えているようですが、かなりハードルが高いということは気に留めておいたほうが良さそうです。

 

 

 

 

6.事例でFIREを紹介

ウォール街の金融関係で7年働いて225万ドル(約2億5500万円)貯め込んで28歳でリタイアした女性J.P. Livingstonさん(29)はその最たる例です。

小中学の頃から書店でリタイア本を読み漁り、バカ高いハーバード大を学生ローンゼロで3年で卒業し、給料の7割を貯めて蓄財に励んで見事あがりを果たしました。

夫はまだ働いていますが、そちらの稼ぎを抜きにしてもこれだけの元手があればもう一生働かなくても親子3人で年間6万7000ドル(約760万円)の生活費は勝手に入ってきます。

 

そんな成功例を見て「27歳で1億円リタイア」を目指してマイカーと自宅の空き部屋3室をすべて賃貸して貯めまくってる新社会人なんかもいるようです。

「お金のために働かなくていい自由の切符を人生のなるべく早い段階で手にいれる」というのが大学進学よりも、ある意味、大きな人生目標になっている状況です。

 

アメリカ人は収入の大体3%しか貯蓄がなくて(連邦準備制度理事会調べ)、「いざというとき自由になるお金が400ドル(約4万5000円)もない」層が半分近くもいます。

ミレニアル世代(30歳以下)の3分の2は「老後の蓄えゼロ」なので本当に一部のムーブメントですけどね。

月々で物事を考えている限り資産は一生貯まらないけど、お金がお金を生む資本主義のしくみに早い段階で気づいて、できることをやっていけば結構差はつきます。

そういうことを教えてくれる人が周りにいない20代、30代にこそ意識してもらいたいですね。

 

 

 

7.「物質的な豊かさ」と「時間的な豊かさ」

日本のミレニアル世代にも、「FIRE」ムーブメントが起きつつありますが、この考え方と対照的なのがミレニアル世代の親世代であるいわゆる「バブル世代」の考え方です。

 

1960年代後半生まれのバブル世代は、高度経済成長期に生まれ、安定成長期に育ち、バブル期に成人していることから、育ってきた過程のほとんどが好況期でした。

就職してからも働けば働くほど会社も労働者も潤う経験をしている方が多くいますし、不動産をはじめとした資産価格も高騰しました。

これらに伴い、当時のビジネスマンは長時間の残業も惜しまず働き、高収入を手に入れて、大きな家や高級外車、華やかな衣服や装飾品の購入といった「物質的な豊かさ」を追求する傾向にありました。

そのため、現代においても、バブル世代には「時間的な豊かさ」よりも「物質的な豊かさ」に重きを置く価値観を持つ方が多くいるとされています。

 

対照的に、子のミレニアル世代は、バブル崩壊前後に生まれ、経済が低迷していたとされる、いわゆる「失われた20年」に育ち、就職活動も決して楽ではなく「就職浪人」が多発する世代でした。

さらに、ミレニアル世代は10代のうちからインターネットに触れていて、SNSやブログなど、世界中の多様な価値観をより身近なものとして知る機会に恵まれていました。

そういった背景からか、ミレニアル世代の間では、「物質的な豊かさ」を追い求めない考え方が主流となっているようです。

 

こういった下地もあり、「FIRE」は日本のミレニアル世代にも非常に親和性があるとされています。

 

例えば、日本にも、「FIRE」を目指して四畳半の部屋に住み、洋服は夏服・冬服・スーツの3パターンしか持たずに生活コストを徹底的に下げ、収入の8割を投資にまわして貯蓄を増やしている人もいます。

「海の近くに住み、満員電車に揺られることなく、毎日好きな時間に好きなだけサーフィンをして過ごしたい」

30代でそんな人生を手に入れるため、日々、節制と貯蓄にいそしむ姿は、とても充実して見えるという方も少なくないのではないでしょうか。

 

彼らは「FIRE」を実現することで、限りある人生を会社のためではなく、自分自身のために使える状態、すなわち「時間的な豊かさ」を手に入れたいと言います。

 

 

 

8.仕事と生活の価値観が変わりつつある

FIREという考え方が生まれた背景には、当然ですが、若者を中心に「自由に働きたい」、「自由に生きたい」という価値観を肯定的に捉える人が多くなったからでしょう。

日本でも「FIRE」や「早期リタイア」という言葉が徐々に認知され始めてきていますが、それよりも日本では、「自由に働く=フリーで働く=フリーランス」という言葉の方を先に思い浮かべる人が多いです。

 

日本のフリーランス人口は2018年に1,000万人を突破し、今では全就業者数の約6分の1が自らの能力を頼りにフリーとして働くようになりました。

このように、日本でも「会社の枠を出て自由な環境を手に入れたい」という人が増えると、FIREの考え方が世の中に浸透していくかもしれません。

 

 

 

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